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東京家庭裁判所 昭和45年(家)3075号 審判

申立人 坂本雄治(仮名) 昭四二・八・二八生

右法定代理人親権者母 坂本照子(仲名)

相手方 水野明(仮依)

主文

相手方は申立人に対し、金六〇、〇〇〇円を直ちに、昭和四六年一月一日以降同年一二月末日まで一ヶ月金六、〇〇〇円の割合による養育費を支払え。

相手方は申立人に対し、前項金六、〇〇〇円の養育費月額につき、昭和四七年一月一日以降昭和五四年一二月末日まで毎年一月一日、それぞれ前年度の月額に各一、〇〇〇円を加算した金額を当該年度の養育費月額とした金員を、昭和五五年一月一日以降申立人が成人に達するまで一月金一五、〇〇〇円の割合による金員を、それぞれ毎月末日かぎり支払え。

理由

一  申立の実情

申立人は、申立人法定代理人坂本照子(以下申立人母と略称する)と相手方との間の子として昭和四二年八月二八日出生し、相手方は昭和四三年一〇月二五日届出により申立人を認知した。従つて相手方は申立人の父として養育費を負担する義務のあるところ、昭和四三年九月から昭和四四年一月分まで毎月金一〇、〇〇〇円ずつ、同年二月は五、〇〇〇円支払つただけで同年三月以降養育費の支払いをしない。相手方は○○建設株式会社の現場監督として永年勤務しており相当の定収入のある者である。よつて、昭和四四年三月以降一ヶ月金一〇、〇〇〇円の割合による養育費の支払を求める。

二  当裁判所の判断

(一)  当庁調査官星山卓朗作成の昭和四五年四月三〇日付調査報告書、第一、二回申立人法定代理人本人審問の結果ならびに本件記録中の資料、当庁昭和四二年(家イ)第五四四八号認知・婚姻外関係解消等調停申立事件、当庁昭和四四年(家イ)第四六六六号慰謝料等調停申立事件各記録中の資料を総合すると次のとおりの事実を認めることができる。

(1)  申立人母は、相手方を申立人母が新潟県十日町で働いていた昭和三四年八月頃知り合い、相手方には妻子がなく、申立人母と結婚するという言を信じて相手方と情交関係を持つようになり、その後申立人が上京した後もその関係を続け、その結果申立人を懐胎し、昭和四二年八月二八日申立人が出生した。申立人母は同年七月頃相手方に妻子のあることを知り、相手方の妻にも申立人母のことが知れて以来申立人母と相手方との関係は解消した。

(2)  申立人母は相手方に対し昭和四二年一一月八日当庁に慰謝料一〇〇万円の支払及び申立人の認知並びに養育費の支払を求める調停申立をなし右申立は当庁昭和四二年(家イ)第五四四八、五四四九号調停事件として係属し昭和四三年一〇月二六日まで五回の調停期日に呼出を受けながら出頭せず、三回におよぶ当庁調査官の出頭勧告中の調整活動により、相手方は昭和四三年八月三一日、相手方妻と連名で養育費として毎月金一万円を支払う旨の誓約書を申立人母に送付し、同年一〇月二五日には届出により申立人を認知し、かつ八月以降毎月一万円ずつを送金してきたので、申立人母は同年一〇月二六日前記申立を取下げた。

(3)  然るに相手方は昭和四四年三月頃から養育費を支払わなくなつたので、申立人母は同年八月二七日再び、当庁に対し慰謝料と養育費の支払を求める旨の調停申立をなし同申立は当庁昭和四四年(家イ)第四六六六号事件として係属し、相手方は昭和四五年二月一九日まで五回の調停期日につき適式の呼出ならびに当庁調査官による再度の出頭勧告を受けながら出頭せず、同年三月一三日申立人母は右申立を取下げた。

(4)  本件審判期日についても、適式の呼出を受けながら相手方は出頭しない。

以上の事実が認められ、相手方は未成熟子の父として申立人に対し、監護養育に要する費用を支払う義務があるものと認められる。前記認定によると相手方は申立人に対する右責任を回避しようとしていることが認められるけれども、相手方は申立人に対する責任を免れることはできないことを知るべきである。

ところで、前記認定の事実によると、申立人母と相手方との間に養育費の分担について協議の成立していることが認められるけれども、後記認定のとおり、申立人母の就職等の事情変更により、養育費の分担額も当然変更すべきものと解されるので、前記協議の存在は、何ら本件審判手続において相当額を定めるにつき、障碍になるものとは解せられない。

(二)  そこで、相手方の分担すべき養育費につき、考えてみることとする。

(1)  前掲各証拠を綜合すると、申立人母は三九歳で、現在割烹旅館に勝手女中として申立人とともに住込み、月三万円を得ていること、申立人は現在三歳で保育園に通園しており気管支喘息の持病があること、相手方(四〇歳)は建設会社に勤務し一ヶ月六七、〇〇〇円の収入(昭和四四年一〇月より昭和四五年三月までの六ヶ月の月収平均)を得て、妻美智子(三七歳)長女(九歳)二女(五歳)とともに生活していることが認められる。

(2)  次に申立人の養育費につき申立人母と相手方とがどのように分担すべきかにつき生活保護基準および労研方式により算定してみる。

(イ) まず、未成熟子の扶養義務の性質よりみて、少くとも最低生活を送つてなおゆとりのある親には扶養義務ありとすべく、生活保護基準額によると申立人母と申立人の生活保護費は二〇、一七五円であり、相手方世帯のそれは三二、四四五円であるから、それ以上の収入のある申立人母および相手方はいずれも申立人を扶養することは可能である。

(ロ) 次に、未成熟子に対する扶養は、自己と同等の生活を営ましめる、いわゆる生活保持義務であるから労研方式により申立人が申立人母あるいは相手方世帯において扶養される場合を比較し、その養育に費される額の高い方をもつて未成熟子の生活費と定めるべきものとする。そこで、別紙記載の消費単位を基準とする労研方式により、申立人母は生計の中心となつているので、別紙綜合消費単位を参考に消費単位を一〇〇とし、相手方の消費単位を中等作業一〇五として算出すると、

申立人母に扶養される場合

30,000×円40/(100+40) = 8,568円

相手方に扶養される場合

67,000円×40/(105+80+60+45+40) = 8,120円

となるので、その高い方八、五六八円を申立人の生活費とする。

(ハ) 次に右八、五六八円を、申立人母と相手方とがどのように分担するかについては、各扶養義務者の生活の余裕に比例して分担すべきで、その余裕の算定のため各自の収入から最低生活保障水準を控除した残額をもつて生活の余裕としてその割合をもつて、前記金額を配分することとする。すなわち、昭和四五年一〇月一二日附当庁調査官渡辺孝子の調査報告書によると、申立人ひとりの生活保護基準額は-約一六、〇〇〇円、相手方らの家族のそれはほぼ-四〇、〇〇〇円であるから申立人母の生活のゆとりは、一四、〇〇〇円、相手方のそれは二七、〇〇〇円であると認められ、右申立人母相手方に認められるそれぞれの余裕の割合をもつて申立人母と相手方との前記八、五六八円に対する分担額は次のとおりとなる。

申立人母 8,568円×14/(14+27) = 2,926円(四捨五入)

相手方 8,568円×27/(14+27) = 5,642円(〃)

(3)  以上の計算を基礎として、申立人に医療費等の出費があること等の事情を考慮するときは、現時点における相手方の分担すべき養育費は一ヶ月六、〇〇〇円が相当と判断される。

(三)  ところで、申立人の将来の養育費については、申立人の成長につれてその費用の年々増加することは別紙綜合消費単位に照らし明らかであること、相手方の給与収入も物価上昇や職業的地位の向上に伴い当然毎年増加することが予測されること、等を斟酌するときは、昭和四七年一月以降は昭和五四年一二月まで毎年一月一日に前年度の月額に一、〇〇〇円ずつ加算した金額をその年度の月額養育費とすべく、昭和五五年一月以降申立人が職業に従事して収入を得る等の事情の変更のないかぎり、一月金一五、〇〇〇円を成人に達するまでの養育費としてそれぞれ支払うべきものと判断する。

(四)  以上の次第であるから、相手方は申立人に対し本件調停期日の相手方に送達されたことが記録上明らかな昭和四五年三月以降本件審判言渡後の月である昭和四五年一二月まで一〇ヶ月の前記認定の養育費合計六〇、〇〇〇円の一時払い、ならびに昭和四六年一月一日以降の養育費として、一ヶ月六、〇〇〇円、以後は前記認定の各金額の支払をなすべきものと判断する。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 野田愛子)

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